不倫報道に湧く世間の心理 〜私たちの脳が求める”シャーデンフロイデ”〜

最近聞かないなぁと思っていたのですが、久しぶりに芸能界の不倫報道が湧いています。今回は永野芽郁さんと田中圭さん。憧れの人たちが、一夜にして「けしからん」「信じられない」という批判の的に。…飽きるほど見慣れた光景が繰り広げられています。
私たちはなぜこんなにも他人の恋愛事情ーーそれも”不倫”という言葉がつくと途端に興奮してしまうのでしょう。ある意味、不倫する立場も不倫を目撃する立場にも何らかのメリットがあるから、という事ですよね。
そこには2つの高揚感があります。
社会通念上、不倫が「いけないこと」とされる理由は明白です。約束や信頼を裏切る行為であり、家族や配偶者に心の傷を負わせるから…。
でも、それがわかっていながら、なぜ人は不倫をやめられないのでしょう?
その答えは、私たちの脳の中にあります。
人が恋に落ちるとき、脳内ではドーパミン、セロトニン、オキシトシン、アドレナリン、そしてテストステロンやエストロゲンといったホルモンが複雑に絡み合い、まるで化学反応のような現象が起きます。特に初期の恋愛感情は、ドーパミンの大量放出によって引き起こされる一種の「高揚感」です。
この状態は、麻薬中毒に近い脳の状態を作り出します。理性や道徳、「こうあるべき」という考えをかき消してしまうほどの強さを持つのです。
つまり、不倫が起きるのは「道徳心の欠如」ではなく、人間の理性を凌駕する脳内化学物質の力が関係しているのです。
「不倫すべきではない」と倫理的に批判することが、そもそも無理な話です。
多くの動物種では、強いオスがより多くのメスと交配するのは自然の摂理。種の保存と遺伝子の多様性を確保するためなら、不倫なんて制限していられないのが生物界のルールです。まれに「夫唱婦随」の動物もいますが、それは全体の個体数が少ないとか外敵が少ないなど、種の保存の環境が恵まれているからとも言えます。
さて、今度は不倫話に飛びつく側の人間の心理に目を向けてみましょう。
心理学に「シャーデンフロイデ」という現象があります。ドイツ語で「他人の不幸を喜ぶ気持ち」を意味するこの言葉は、人間の隠れた本能を表しています。
実はこれも、元をたどれば種の保存に関わる本能です。
進化心理学的に見ると、部族社会において敵の不幸を喜ぶことは、自分の集団の相対的優位性を高め、生存確率を上げることにつながります。闘争本能であると同時に防衛本能でもあるわけです。
そして皮肉なことに、このシャーデンフロイデが活性化するとき、脳内では「愛のホルモン」と呼ばれるオキシトシンも分泌されています。自分の「内集団(自分と同じ立場の人たち)」への結束を高めるためです。
他人の不幸を喜ぶのが愛のホルモンの作用とは…なんと皮肉な事でしょうか。
だから私たちは、不倫した芸能人を叩きながら、ここでも密かな「高揚感」を得ているのですね。「サレ妻」や「サレ夫」に同情するふりをして…自分の日常の不満やストレスも上乗せして…格好のはけ口として利用しているのです。
不倫騒動がネットニュースに上がるたびに、私は「醜いなぁ」と思います。
不倫した人たちに対してではありません。
感情論モロ出しの自分に気づかずに、他人の醜聞に倫理や道徳を振りかざしている人たちに、です。
他者と感情を共有するのは、人間の心を通わせる一つの大きな要素ですが、ネガティブな感情には様々な支障があります。集団になるほど感情のエネルギーは大きくなり、自分の内面の醜さと共に周囲を侵していきます。
「自分たちの方が正しい」という歪んだ正義感で、さらに自分を見失っていきます。
もっと怖いのは、ネガティブな感情のコミュニティは、一度はまると抜け出せないのです。
想像してみてください。特定の人の悪口で結束を固めた仲間に「幸せになったから、他人の悪口に興味がなくなっちゃった。私、抜けるわね」と言って一人で脱退する…あなたにはできるでしょうか。
ネガティブな感情の共有でつながる人たちは他人の落ち度を探し続ける狩人のようなものです。
いつあなたがターゲットになるかわかりません。
そんな恐怖に晒されて生きるより、喜びの共有にシフトしていくのが一番です。
自分の中にある「他人の不幸にロックオンしてしまう要因」を知り、自己変容に努めましょう。